Be a doctor!

都内在住在学の医学生(2年)。医学生の日々の様子を徒然と綴っていきます。

医学の視点から筋肉の疑問解決します

 この記事を不特定多数の方が初見のものとしてみることになるでしょうから,簡単に自己紹介しておきますと,僕は現在東京で医学生をしているものであります。医学の勉強というと,暗記がやはり多いわけですが,中にはちょっとした雑学のようなものもあります。結構それが興味深いし,かつての自分の空虚な妄想に対する答えとなっていることもあるのです。今日は2つほど,多くの方が耳にしたことはあるし,馬鹿の一つ覚えのように唱えていること()であるけれど,実はよく知らないことについてお話ししたいと思います。

 

乳酸が溜まるとは…?

 体を鍛えたことのある人,よく体育の授業を聞いていた人ならば,乳酸という言葉を耳にしたことがあるでしょう。乳酸が溜まる,という表現をよくしますね。急激に筋肉を動かした後に筋肉が痛くなるのは,乳酸が溜まることが一つの原因と言えるでしょう。

 しかし,なぜ乳酸が溜まるのでしょうか。ここからは割と専門的な話をするので,興味がない人は次の段落まで飛ばしてください。筋肉,特に速筋と呼ばれる部類の筋肉においては,酸素を使わずにエネルギーを取り出すことを行います。有酸素運動無酸素運動と絡む話です。有酸素運動が長距離運動,無酸素運動が短距離の運動であることをイメージしていただければ話は簡単です。無論有酸素運動の方が効率が良いわけですが,酸素を使うエネルギーの取り出しを行うのには時間がかかります。だから,短距離など,短時間で勝負が決まる運動では無酸素のエネルギー取り出しを行うわけです。無酸素でエネルギー取り出しを行うことにより,副産物的に乳酸が生成してしまいます。もっと踏み込んだ話をすると,エネルギーを取り出す解糖系という一連の化学反応においてNADという補酵素を必要とするのですが,最終生成物であるピルビン酸を還元し乳酸にすることでNADを取り出し,解糖系をさらに回すことが可能になるのです。

 本題に戻ります。なぜ,乳酸が溜まると良くないのか,ということですよね。乳酸は名前に酸とつく通り,周りを酸性化する働きを持ちます。pHでいうと6.5程度です。この低いpHにより,最初に起こるエネルギー取り出し反応(無酸素,有酸素いずれの解糖系よりも早く起こる)に関する酵素クレアチンキナーゼを不活化させます。クレアチンリン酸からエネルギーを取り出す反応(Lohmann反応)がまずはじめに筋肉で起こるわけですが,これがうまくいかければ疲れますよね。また,酸性の環境は神経を刺激し,痛みとして感知されます。

 乳酸がどうして溜まるのか,またなぜそれが疲労や痛みを引き起こすのか,ということが少しでも伝われば嬉しいです。

全身心筋になったら無限に疲れない体になれるんじゃね??ワイ天才や!

 全身の骨格筋を心臓を構成する心筋で置き換えたら万能になれるのではないか,ということを考えたことのある方はいるでしょうか?心臓は生まれてから死ぬまで基本的に動くのを止めないですし,疲れませんよね。運動しても疲れ知らずの筋肉を手に入れられたらいいのになー,と僕はよく考えていました。

 でも事実,そううまくはいきません。心筋は万能なようでいて,実は能力が結構制限されています。必要十分なスペックしか持っていません。仮に心筋でできた骨格筋を持っていたとしても,それは全く役に立たないものになってしまうでしょう。3つの視点から解説していきます。

 まず以って,心筋のレスポンススピードは,骨格筋と比べてかなり遅いです。骨格筋がミリ秒単位のオーダーで動くのに対して,心筋は秒に近いオーダーで動きます。レスポンスに100倍くらいの差があると思っていただければ簡単です。だから,素早い動きに対応することはできませんね。

 少し専門的な話になりますが,心筋は強縮という収縮ができません。骨格筋であれば,電気刺激が大きくなればなるほど収縮の頻度が上がり,それぞれが積み重なることで大きな力を産むことになります。これを強縮と言います。ですが,心筋の場合,張力の和を考えるようなことはできません。ですから,心筋は強いようでいて,パワーの面ではかなり劣るわけですね。血液を送り出すとはいえども,何か物を持ち上げるような運動と比較すれば必要な仕事は小さいでしょう。

 最後に,ミクロの視点から。筋肉は収縮を起こすのにカルシウムイオンを必要とします。カルシウムイオンがアクチンフィラメントの形を変えることにより,ミオシンフィラメントが結合できるようになって張力を生み出します。骨格筋ではカルシウムイオンを細胞内からの供給のみでまかなっていますが,心筋の場合細胞外からも供給してもらっています。細胞外からの供給が果たして全身で可能なのか,疑問が募るばかりです。

 こんな理由で,全身心筋になるのはあまりメリットがありません(仮にできたとしても)。どうしても疲れない体が欲しい人だけ。でも,パワーは出ませんし,反応も遅いし,ナマケモノみたいになってしまいますよ。。。

 

終わり。またこういう記事が書けたらいいな。

 

 

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